ほねぐみ

本、映画、ゲームの感想など徒然

【ムーンフォール】落ちてくる月に圧倒される

なぜか軌道をはずれた月が数週間で地球に激突する。衝突の理由と回避の道を探るため、元宇宙飛行士とNASA副部長、自称・博士の3人が月へ向かおうとする話。



ここ最近のトピックはコンスタンティン(映画)』の続編!『幻想水滸伝1・2(ゲーム)』のリマスター版!とテンション上がることが目白押し。生きててよかった。

ということで映画『ムーンフォール』を観ました。Amazon Primeホーム画面に大きく出ていて、気になった作品。
同監督の『インディペンデンス・デイ』を観たという知人から「きっとトンデモSFだよ!」と言われてましたがその通りでした。都市伝説ともいえるような噂や陰謀論を取り入れて、やや荒唐無稽なお話に仕上がっています。
かといって安っぽく見えないのは、話のスケールが大きいからか出演者のおかげか。どことなく品が漂います。
上にもあげた知人と、あーでもないこーでもない言いながら観ました。一人でじっくり噛みしめるように鑑賞するよりも、誰かと一緒に感想を述べながら観るのが合っている気がする。
おかげで、よくわからない部分を補完してもらうことができました。スペースXとか、アポロ11号が数分連絡を絶ったとか。

折り返しをすぎてから頭の中でずっと鳴り響く『アルマゲドン』の主題歌。とはいっても「Don't want to close my eyes~」以外はメロディだけですが。歌詞わからん。あと3分の2すぎた辺りからあふれ出す『スターウォーズ』のメインテーマ。どちらの映画もちゃんと観たことはないので、あくまでもイメージでお送りしています。
月にいったい何があるのか、なぜ落ちてくるのかという設定が斬新に感じました。SFスキーさんからするとひょっとしたら「よくある話」かもしれません。たしかに「ありがち~」と思えた部分もなくはないですけど、よく練られていたし映像も美しい。月が綺麗ですね。
フィクションだから「綺麗」なんて言ってられますけど、もし実際目の当たりにしたらそれどころではないでしょう。「本当にあったら自分はどうするか」を考えるのがフィクションの醍醐味だと思います。ゴジラしかり、ゾンビものしかり。

SFあるある(?)な要素が随所にちりばめられていたので、もう少し真面目にSF小説や映画を観てみようかと思いました。
あと今作、続編を作ろうと思えば作れそうですけどどうなんだろう。もし続きがあったら、より設定が活きてきておもしろくなりそうです。

【健太郎さん】30分間の恐怖

健太郎さん

健太郎さん

  • 西川浩幸
Amazon

父、母、兄、妹の4人が住む家には「健太郎さん」と呼ばれる中年男性もなぜか同居している。一日何をするわけでもなく、一言も話さない健太郎さん。彼は何者で、なぜ家に居ついているのかを追っていく話。


タイトルの『健太郎さん』に目を惹かれたのと「誰?」と気になったので視聴。上映時間「35分」という表記に誤りかと思いましたが本当でした。約30分のショートムービーです。
怪奇現象もグロいシーンもなく、びっくりさせる演出もなし。なのに怖い。ひたすら怖い。
健太郎さんも怖いし、何が起こっているのかわからないのが不気味です。ぞわっとするというより、じりじり後ずさりたくなるような怖さと言えばいいでしょうか。
健太郎さんのおかしな食べ方、妹がなついている理由、一方で兄が忌み嫌っている理由、兄が片足を引きずっているわけ、父親が車通勤しない理由、そしてなぜ健太郎さんが家に居ついたのか。
あらゆる謎が終盤で明かされるも、すっきりすることはありません。なぜなら新たな謎が出てくるから。かといって不完全燃焼というわけではなく、その「わからなさ」も怖さ、不気味さにつながっていると感じます。
健太郎さんの正体や同居の理由がわかっても、それでもなお怖いのがすごい。ふつう、理由がわかったら不気味さや怖さって薄まるものだと思うんですけど。

全体的に光の使い方がうまいと感じました。開いた玄関から見える外の明るさと、閉まったあとの家の中のほの暗さ。
あとびっくりさせる演出がないところもいいです。本当に、一切ありません。やろうと思えば「家族の誰かがふり返った目と鼻の先に健太郎さんがいる」とかできると思います。想像しただけでめっちゃ怖い。というかそうなるのではと想像して、目を細めながら観ていたシーンがちらほら。でもそんな演出はありません。
ホラーと銘打っていたら、ふつうはびっくりポイント入れたくなるものなのでは。なのに入っていないのすごい、えらい、と思いながら観てました。そういった演出がないことでたすかる命がある。
たぶんショートムービーだからできたのだと思います。もし普通サイズ(90~120分)だったら、あのままのテンションを維持するのはすごく難しいでしょう。

伏線の張り方もうまく、ホラー風ミステリーとして観ることができました。
家族4人を演じる役者さんがあまり上手でないのが気になりましたが、なんとなくわざとな気がします。一家を白々しく見せて、健太郎さんの奇怪さを際立たせるためなのではと思えました。

【予告犯】就職相談窓口について

法で裁かれない悪事をネット動画で糾弾・断罪する「シンブンシ」を名乗る男。たびかさなる予告と犯行に、警視庁サイバー犯罪対策課の刑事たちが捜査に乗り出す。刑事たちとの攻防と、「シンブンシ」の真の目的が明かされていく話。


主演が生田斗真さんであること、また原作漫画の作者が筒井哲也さんだったので観ました。筒井さんの作品は昔『マンホール』を読んだことがあります。
観終わったあと思わず「オモシロカッタ……」と片言になるほど放心してました。あとラスト20~30分ずっと泣いてた。ギャン泣きです。
それもこれも話がよく練られていたのと、キャスティングがハマっていたから。「シンブンシ」たち4人とサイバー犯罪対策課の班長、そして捜査員たち。主要登場人物はもちろん、ちょい役にいたるまでめっちゃ豪華でした。そしてどの人も配役ぴったりで感情移入が半端ない。あっという間の2時間でした。
とりあえず大体みんなの願いが叶ってよかった。しかし叶わなかった人のことを考えると切ないです。

何を言ってもネタバレになるので、話は少し逸れて主人公たちが陥っていたニート・フリーター問題について。かつて就職相談機関で働いていたこともあり、身につまされました。
正直思う。2年のブランクがなんぼのもんじゃいと。
作中、就職相談窓口にて主人公がブランク(就業していない期間)2年のことを「こんな経歴じゃね~」と薄ら笑いされるシーンがありました。いやいや2年なんてブランクのうちに入らんだろうと……。しかも働けなかった理由だってありますし。
自分の勤務先がやや特殊だったというのもありますが、それにしたって理由あり・たった2年のブランクをネチネチ責めるなんてやりませんよ。
今すぐ別の窓口へ行って担当者をチェンジ、チェンジするんだ……!と念じてました。

2022年現在は、とにかくたくさんの職業相談先があります。特に東京・神奈川・埼玉の3県。
最大手は東京しごとセンターでしょうか。年齢別に窓口が分かれていて、個別相談だけでなくセミナーや長期プログラムを行っています。こちらで行っているワークスタート若者正社員チャレンジ事業はユニークな取り組みです。
※若者正社員チャレンジ事業は、埼玉・神奈川も同様のプログラムがあります。

また全国各地にある地域若者サポートステーションは、ハローワークとは違い仕事の斡旋・紹介はしません。ただ書類作成、面接対策、職業適性検査、パソコン講座といったいろんなセミナーを行っています。実際の企業での職業体験も。

吉野刑事も「助けを求めればいいでしょ!」と言っていました。ほんとそれな。
仕事探しで煮詰まったときはまず、どこかの相談機関を訪ねてみる(または電話・メールで問い合わせしてみる)ことをお勧めします。その機関の利用対象に当てはまらなくとも、より適切な相談先を案内してくれるはずなので。
まぁかく言う自分もヘルプを出すのは苦手ですが……。

利用者側の目線でいえば「どんなサービスを利用するか」以上に「どんな人に対応してもらうか」が重要でしょう。
要は担当者との相性。どんなにサービスが充実していても、対応してくれる担当者と話にくかったり、考えが合わなければ意味がありません。
話しやすい、信頼できる機関や担当者を見つけることが大事です。手間はかかりますが、プラセボなんて言葉もあるくらいですし。実際、処方してくれた医師への信頼度によって薬の効き目が変わる、なんて実験があった気がする。

過去とはいえ就職相談をしていた立場としては、彼らには別の相談先や担当者と出会ってほしかった。
でもきっとお互いに出会えて、誰にも翻弄されず自分たちの道を貫けたことが彼らにとって意義あることなのだとも思いました。

【黄泉のツガイ】2巻の感想

ある山奥で生まれた、朝と夜を別つ双子の兄妹。2人の力をめぐるツガイ使いたちの話。


2巻が出ました。今一番、続きが楽しみな漫画です。
1巻から思ってましたけど、説明的ナレーションを一切入れず読者に世界観を理解させるのすごい。映像向きな作品だなと感じます。
今は主要登場人物を少しずつ出していって、舞台を整えている最中でしょうか。たぶんあと2~3巻かかると思いますが、今も充分おもしろいです。なのにこの先、さらに盛り上がりを見せたらどうなってしまうのか……!

勝手にこの漫画の見どころ。
①ガチハンターメンタルな兄貴 ②兄様だいすきな妹 ③かわいいツガイ

とにかくツガイがかわいい。ガブリエルに愛ちゃん、誠くん、新入りも増えて大所帯になってきました。
動物っぽい見た目のツガイが多い中、主人公・ユルのツガイである左右様は人型、という点が異彩を放っています。
人型か動物型かに法則があるのでしょうか。気になる木。
気になるといえばガブリエル。だいたいのツガイが動物型でおとぎ話や伝説をモチーフにしているのに対し、人型でなければ動物でもない。何モチーフなのかがわかりません。まぁ人も動物も顎持ってますから、どちらの分類にも当てはまるといえばそうですが。
いったい誰の(何の)顎なんだ?というのが一番の気がかり。最初は、ガブちゃん自身か親兄弟の顎なのかなと思ってました。
アキオさんのツガイも気になるといえばなる。一本だたらかな~。早く全体像が見たいです。あとアキオさん、内通者じゃないよな……?ちょっと「うん?」というシーンがあったので。違うことを祈る。

なんとなく「恨み・憎しみ・復讐の連鎖をどう絶つか」という話になりそうな気がしています。メインテーマになるかはさておき、兄妹の課題の一つにはなるのでは。
同作者さんの『鋼の錬金術師』でもこのテーマは少し扱われました。あんなにストレートに復讐心とそれを断ち切ることを取り上げた話は自分にとって初めてで、すごく印象に残っています。

いったいどんな話になっていくのか。
ツガイの成り立ちやアサの身に起こったことなど、まだまだ謎ばかり。各陣営も一枚岩ではなさそうですし、敵味方の入れ替わりもあるかもしれません。
次巻は来年2月の発売。楽しみでなりません。

【翳りゆく夏】ドラマと小説を比較

ある大病院で起きた新生児誘拐事件。その20年後、犯人の娘が大手新聞社・東西新聞に内定した。しかしスクープとして週刊誌に掲載されてしまう。娘の内定辞退を阻止するため、そして火消しのために、実力はあるが窓際社員の主人公が再調査する話。


主演が渡部篤郎さんということでずっと気になっていた作品。ふいに「今だ!」と思い視聴。その後、原作小説を読んだという人と話す機会があり、気になって原作も読みました。
「子供の誘拐」そして「10年以上経ってから再調査」という点で、最近観た映画『64-ロクヨン』と通じるものを感じました。だから無意識のうちにこのドラマを選んだのかもしれません。
(『64-ロクヨン』の感想はこちら▶ 前編後編

ロクヨン』は誘拐事件を中心とした人間ドラマ、という風味が強いですが『翳りゆく夏』はもう少しミステリ寄り。「20年前の誘拐事件で何が起こったのか?」を一人の記者が丹念に紐解いていく物語です。
とはいえ、推理ものとして期待すると少し肩透かしを食らうかもしれません。というのも、ドラマは第2話くらいで何があったかだいたい推測できてしまうからです。映像作品でミステリを作るのは本当に難しいと思う。ここが伏線だなとか、この人が鍵を握っているんだろうなとか、仕草や雰囲気でなんとなくわかってしまうので。
純粋にミステリ部分を楽しむなら、ドラマより小説の方がいいかもしれません。

以下はドラマと小説の比較です。
ストーリーはほぼ一緒。小説の方が出てくる人が多かったり、イベントに少し違いがあるくらいで大筋は変わりません。もちろん結末が違うこともなし。
小説は登場人物の心理描写が少なめで、必要最低限、コンパクトにまとめられている印象です。
かといって物足りないわけではなく「敢えて濃く書いていない」だけな気がします。わざとあっさりめにしているというか。文章をなるべく削ぎ落して「必要なものだけ描写している」といった感じ。
本当は重いテーマだし(なにせ赤ちゃんの誘拐事件……)、主要キャラクターたちの境遇もオーバーラップしていて厚みがあるものの、心理描写が少なく文章も削ぎ落されているのでさらっと読めてしまう。だからか淡々とした印象を受けます。
そんな小説の雰囲気を、ドラマはよく表現していると感じました。イベントや台詞もほぼ原作通りだと思います。

違うとしたら、それは「女性の描き方」でしょうか。
ドラマを観ていてすごくびっくりしたところがあって、橋爪功さん演じる東西新聞社社長・杉野さんが誘拐犯の娘・朝倉さんと養父母を訪ねたシーン。あと風俗嬢・田尻さんがかつての同級生(?)を客としてとるシーン。
前者は社長と養父母、朝倉さんの4人で食事をするのですけど、社長がお酒を注ぐのは養父の分のみ。朝倉さんの分は養母が注いで、養母には誰も注ぎません。そして養母を除く3人で乾杯します。
養母のグラスが空なこと、また乾杯に参加したいことにも誰も疑問を抱いている様子はありません。そういう作法でもあるのか?聞いたことはありませんが。あと自分が子供の立場だったら母親に注ぐけどな……と思いながら観てました。
そして後者の田尻さんのシーンは、びっくりしたというよりシンプルに胸糞だなと。男がクソすぎる。

どちらも小説にはなかったシーンです。リアリティや話のつながりを出すためのシーンなのでしょうが、どこか意図的なものも感じる。とはいえメインスト―リーとのつながりがよくわからず、なぜこれらのシーンが入れられたのかが不思議。
「虐げられた女性」という括りでまとめられるといえばできそうですが、いまいちしっくりきません。
朝倉さん、千代さん、田尻さん、主人公の元妻などとリンクはするけれど、果たして本当にそういう意図なのか。謎です。

ドラマと小説に大きな違いはないとはいえ、それぞれ良さがあります。
小説は登場人物の言動の意図がわかる。ドラマだとちょっと掴みきれない部分があり、それを小説で補うことができました。あとところどころ表現がおもしろい。
ドラマは俳優さんの演技が上手く、観ていて飽きません。あと音楽がいい!サントラを探しましたがどうもないようで残念。
最後になりましたが『翳りゆく夏』というタイトルもいいです。ドラマ版だと冬が舞台という点も趣きがある。きっとスケジュールの関係だとは思いますが。

【64-ロクヨン-後編】「悩める中年」がハマり役

わずか7日しかなかった昭和64年の、少女誘拐殺害事件。通称「ロクヨン」。時効が迫った平成14年12月に「ロクヨン」事件と類似した誘拐事件が発生する。誘拐は本当なのか、それとも狂言か。広報官を中心に14年前の事件が動き出す話。


前編の感想はこちら
観る前は上のサムネイルの意味がわからず「なんで公衆電話?」でしたが、観終わった今ならわかります。見るだけでもう泣きそう。

後編も前編に負けず劣らず、いろんな人たちの思いがオーバーラップした作品でした。主人公の三上広報官、被害者家族の雨宮家、元警官の幸田氏、記者の秋川氏など。
そして人間模様を中心に描きつつ、後編ではさらに「ミステリ」「刑事ドラマ」としての様相も見せてきます。
ここに少し驚きました。「ロクヨン」事件についてはなんとなく「真相はよくわからず」で終わるような気がしていたからです。なにせ現在の主人公は広報室所属。捜査一課ではないので捜査もしなければ情報も降りてきません。事件に再び関わるきっかけも動機もない。
だからあくまでも人間ドラマが中心で、事件のことはうやむやのまま終わるのだろうと思ってました。
しかし前編の出来事を伏線に、犯人に迫るまでの流れがあっぱれ。その迫り方も「昭和末から平成半ばにかけて」という世相をよく表していて、本当によくできていると感じました。
ただ、現在20代前半くらいの若い方はどう思うんでしょう。ひょっとしたらいまいちピンとこないかもしれません。「昔はあんなことしてたの?なんで??」くらい思うかも。時の流れっておそろしい。

とにかく、登場人物たちの心理描写が細かいしよく練られています。特に主人公・三上広報官と被害者である父・雨宮氏の共鳴ぶりがすさまじい。本っ当にこんな話よく考えついたなとしかいえません。
そしてここにもう一人、犯人も加えると、3人のトライアングルが重なったり反発したりして苦いものがこみ上げます。三上氏と雨宮氏だと共鳴するのに、犯人を入れると不協和音になるというか。
この犯人の内面が、最後までよくわからないままでした。理解しがたいというよりも不透明な感じ。けっこう脇役にいたるまで人物像をかっちり決めて作られている印象だったので、どうして犯人像だけこんなにピンボケしているのか不思議でなりません。

そう思って調べてみたら、原作があるんですね。しかも小説。だから人物の描き方に厚みがあるのかと、いたく納得。もちろん「そういう作風だから」というのが一番大きいでしょうが、小説という媒体は心理描写を描くのにうってつけと思います。
するとまさか犯人は映画オリジナル……?気になってきました。
犯人のみならず、心情を追い難い人や場面があったので、小説を読んでみようかと考えています。

【探偵・石動戯作シリーズ】作品ごとに異なる味わい

シリーズ1作目。岐阜県のとある村の鍾乳洞には「病を癒す泉」があるという。その鍾乳洞の前である日、首なし死体が発見された。連鎖する殺人事件と「奇跡の泉」の探索、そして村に伝わるわらべ歌の謎を探偵・石動戯作が解き明かす話。

シリーズ4作目。エドガー・ランペールこと<稲妻卿>が13世紀に建造したシメール城。廃墟となっていた城を買い取った江里陸夫に、エドガー卿の亡霊が乗り移りこう言った。「密室で殺された我が死の謎を解き明かしてほしい」。そして再び起こる古城での殺人事件に探偵・石動が挑むお話。

シリーズ3作目。マラルメの研究者・瑞門龍司郎が建てた梵貝荘(ぼんばいそう)で起こった14年前の殺人事件。犯人は逮捕され解決したかに見えた事件を、探偵・石動が再調査するお話。


シリーズ2作目『黒い仏』の感想はこちら
一番最初に読んだのは『黒い仏』で、それ以降は上に挙げた順番で読みました。ただ実際に刊行されたのは、美濃牛→黒い仏→鏡の中→キマイラ の順。自分は2、1、4、3と読んでいったことになります。
どれも独立した話なので、刊行順に読まなくても特に問題は感じませんでした。ただ4作目『キマイラ』にて、3作目『鏡の中』のトリックに触れるところが1ヵ所あります。1ヵ所触れたからといって『鏡の中』のおもしろさが損なわれはしなかったものの、やはり刊行順に読む方がいいんだろうな……と反省。

探偵・石動シリーズは不思議な作品が多いです。謎の村や館で不可解な殺人事件が起こって、そのトリックや犯人を探偵が見破るという、よくあるタイプの推理小説ではありません。
一番オーソドックスな「推理小説」といえるのは、1作目『美濃牛』でしょうか。石動探偵も大活躍ですし。ただ神出鬼没で、探偵が一番胡散臭いのも同作だと思いますが。探偵が胡散臭い作品大好きです。
他は変わり種が多く、妖怪大戦争(2作目『黒い仏』)、13世紀の騎士が現代で大暴れ(4作目『キマイラ』)、序盤に探偵・石動が死亡(3作目『鏡の中』)など作品ごとに味わいが大きく異なります。
殺人事件は起こるけれども、それ自体の謎はおまけみたいなもの。メインは殺人事件をきっかけに生じる人間ドラマや、作品全体に仕掛けられた読者に向けた謎とえいます。よくもまぁ毎回考えつくな!と震えざるをえません。

人間ドラマも、読み終わるとしんみりさせられます。『美濃牛』は犯人の気持ちを、『キマイラ』はエドガー卿の、『鏡の中』は「ぼく」がその後どうなったか考えるとせつねぇ。
そして一番せつないのは、もうけっして続巻が出ないこと。作者の殊能将之氏は2013年に亡くなっているため、これ以外の石動シリーズを読むことは絶対に叶いません。
もし続巻が出ていたら、石動探偵とアントニオの出会いの話とか、アントニオにかかった追っ手をみんな(石動、水城、エドガー卿、星慧、夢求ら)で追い払う話とか読めたかもしれないのに……本当に残念でなりません。

探偵・石動シリーズではありませんが『子どもの王様』を読んで殊能さんの作品にピリオドを打ちたいと思います。