【探偵・石動戯作シリーズ】作品ごとに異なる味わい
シリーズ1作目。岐阜県のとある村の鍾乳洞には「病を癒す泉」があるという。その鍾乳洞の前である日、首なし死体が発見された。連鎖する殺人事件と「奇跡の泉」の探索、そして村に伝わるわらべ歌の謎を探偵・石動戯作が解き明かす話。
シリーズ4作目。エドガー・ランペールこと<稲妻卿>が13世紀に建造したシメール城。廃墟となっていた城を買い取った江里陸夫に、エドガー卿の亡霊が乗り移りこう言った。「密室で殺された我が死の謎を解き明かしてほしい」。そして再び起こる古城での殺人事件に探偵・石動が挑むお話。
シリーズ3作目。マラルメの研究者・瑞門龍司郎が建てた梵貝荘(ぼんばいそう)で起こった14年前の殺人事件。犯人は逮捕され解決したかに見えた事件を、探偵・石動が再調査するお話。
シリーズ2作目『黒い仏』の感想はこちら。
一番最初に読んだのは『黒い仏』で、それ以降は上に挙げた順番で読みました。ただ実際に刊行されたのは、美濃牛→黒い仏→鏡の中→キマイラ の順。自分は2、1、4、3と読んでいったことになります。
どれも独立した話なので、刊行順に読まなくても特に問題は感じませんでした。ただ4作目『キマイラ』にて、3作目『鏡の中』のトリックに触れるところが1ヵ所あります。1ヵ所触れたからといって『鏡の中』のおもしろさが損なわれはしなかったものの、やはり刊行順に読む方がいいんだろうな……と反省。
探偵・石動シリーズは不思議な作品が多いです。謎の村や館で不可解な殺人事件が起こって、そのトリックや犯人を探偵が見破るという、よくあるタイプの推理小説ではありません。
一番オーソドックスな「推理小説」といえるのは、1作目『美濃牛』でしょうか。石動探偵も大活躍ですし。ただ神出鬼没で、探偵が一番胡散臭いのも同作だと思いますが。探偵が胡散臭い作品大好きです。
他は変わり種が多く、妖怪大戦争(2作目『黒い仏』)、13世紀の騎士が現代で大暴れ(4作目『キマイラ』)、序盤に探偵・石動が死亡(3作目『鏡の中』)など作品ごとに味わいが大きく異なります。
殺人事件は起こるけれども、それ自体の謎はおまけみたいなもの。メインは殺人事件をきっかけに生じる人間ドラマや、作品全体に仕掛けられた読者に向けた謎とえいます。よくもまぁ毎回考えつくな!と震えざるをえません。
人間ドラマも、読み終わるとしんみりさせられます。『美濃牛』は犯人の気持ちを、『キマイラ』はエドガー卿の、『鏡の中』は「ぼく」がその後どうなったか考えるとせつねぇ。
そして一番せつないのは、もうけっして続巻が出ないこと。作者の殊能将之氏は2013年に亡くなっているため、これ以外の石動シリーズを読むことは絶対に叶いません。
もし続巻が出ていたら、石動探偵とアントニオの出会いの話とか、アントニオにかかった追っ手をみんな(石動、水城、エドガー卿、星慧、夢求ら)で追い払う話とか読めたかもしれないのに……本当に残念でなりません。
探偵・石動シリーズではありませんが『子どもの王様』を読んで殊能さんの作品にピリオドを打ちたいと思います。