ほねぐみ

本、映画、ゲームの感想など徒然

【君と宇宙を歩くために】豊かな心理描写とほどよいミステリ

comic-days.com

小学校の2ケタ割り算で躓いてからやさぐれ気味な小林君と、変わり者の転校生・宇野君が七転八倒しながら生きていく話。


普段はとにかく殺人!ミステリ!犯人は誰だ!?みたいなのが好きなので、こうした日常ものは手に取る機会がありません。
それがなんとなくタイトルに惹かれて読み始めたところ、宇野君の解像度たけぇー!小林君の躓きポイントめっちゃわかるぅー!となり。さらに第1話の、中~後半における細やかな心理描写にノックアウトされました。

ある人がある人へ向ける共感とか、葛藤とか、わかる……わかり味しかない……むしろ身に覚えのない人いないでしょ、とすら思えるほど。いやひょっとしたら「わからん」と首を傾げてしまえる完全無欠の人もいるかもしれません。しかし今作の登場人物たちが受ける逆風は、大抵の人が一度は感じたことがあるはず。


そんな感じで心理描写に魅せられまくった第1話でしたが、かすかにミステリ色もあって続きが気になります。
今一番の謎は「宇野君はなぜ転校してきたのか」ということ。環境の変化、苦手そうなのに。そして家族の理解もありそうなのに。転校は宇野君にとってストレスフルだと思うし、本人も家族もきっとわかっているだろうにそれでも転校してきたのはなぜか。
前の学校にいられないような出来事があったのか、親御さんの仕事の都合か。それにしては両親と住んでる様子はなし。
でも宇野君のピュアさは「家族の愛情と理解を一身に受けて育ってきた子」という感じもします。だから同居人が姉だけっぽいのが不思議。

そして宇野君の自分自身に対する洞察力の深さは、両親が理解者と考えると納得。専門機関を訪ねたことがあるのか、家族と話して工夫を凝らしながら進んできたのか。
あるいは両親のどちらかが宇野君とソックリまでありそう。だから彼はあそこまで自己理解が進んでいるのでは、とか。
でもそう考えると、なおさら姉以外の気配がないことが謎すぎる。
ひょっとしたら家族以外で、宇野君の自己理解を深める理解者かつ協力者が身近にいたのかも、とか。
想像が膨らみます。


生きづらさを抱えた若者たちの織りなす話って、心理描写に寄るか「先の読めない展開(ほぼサスペンス)」に寄るかのどちらかと思ってました。
後者の方が好みではありつつ、だいたい殺伐すぎて読んでて険しい顔になる。だからサスペンスでなしにミステリ風味を、しかも「現在にいたるまでの経緯」で出せるのがすごいな~と感じました。

宇野君と家族がこれまでどう過ごしてきたのか、なぜ転校してきたのか、バックボーンの伏線を散りばめておけば謎になるし、登場人物たちの人となりにも厚みが出ます。ただ構成力がものすごく問われそう。

見た目はシンプルながら奥深く味わい深い、そんな物語になりそうです。