ほねぐみ

本、映画、ゲームの感想など徒然

【まれびと親指姫】異世界で生きるということ

人ならざる者たちが住む精霊市国。そこには時折、妖精たちの行いによって人間が紛れ込む。
街はずれで粘土工を営むヨキは、仕事を手伝ってくれる働き手を募集。そして送られてきたのは、人間界の絵本とやや特殊な力を持つ少女だった。精霊王の交代、異界との交易、きな臭い情勢などに取り囲まれながら、ヨキと名もなき少女が交流する話。


1巻が出てる!と買ったらその翌日に2巻が発売してました。すぐに続きが読めてちょっぴりお得感。ホクホクです。

「こういう話」とあらすじをとっても説明しにくい今作。あえて言うとすれば「訳あり、異分子の2人が不穏な世界情勢に巻き込まれながらも徐々に交流を深めて力強く生きていく話」でしょうか。
おもしろいのは、最近流行りの異世界ものでありながら一線を画しているところ。「人間界で平凡に暮らしていた主人公が異世界で特殊能力を得てチートで無双する」みたいな話とは異なります。
「人間が異世界」「で特殊能力を得る」までは同じですが、別にチートでもないし無双もしません。わりと特殊かつ強力っぽい能力ではあるものの、全貌も明らかになっていませんし。
能力勝負というよりも、どちらかというと心の力、精神力勝負みたいなところがある。現に主人公(特に少女の方)の「地に足つけて生きていく、世界に存在する」力がハンパないことが2巻で明らかとなりました。2巻のドールハウスのくだりはしばらく忘れられそうにありません。
望んで得た力でも状況でもない。そんな中でもお互い手を取り合って力強く生きていく、主人公たちのひたむきさが眩しいです。

あともう一つおもしろいのが「青年と少女」という組み合わせながら2人の関係がどうなっていくかわからないところ。
恋愛関係になるのかどうか。たぶんお互い大事に思ってるし心のよりどころにはなりそう。ただ恋愛の段階をすっ飛ばして「家族」や「唯一無二の相棒」になっていくのではと想像してます。

もともと作者さんのファンです。10年ほど前に本屋さんで『非怪奇前線』をたまたま手に取ってからファンになりました。かなり初期の頃の作品以外はほぼ読んでいるかと。
わりとどの作品も「恋愛や友情とは少し異なるバディもの」が多い印象。

『まれびと~』は他作品とも通じるものを感じます。世界観が少し似ていたり「あの物語で語り切れなかったテーマの続きなのか」と思うこともあったり。長年のファン(?)として嬉しい限り。
具体的な作品名を挙げると、精霊・妖精という存在と在り方には『少年魔法士』と『死なずのあぎと』を、語られるエピソードや雰囲気は『プラネット・ラダー』『鉄壱智』『原獣文書』を彷彿とさせます。


1巻はまだまだ導入という印象。精霊市国の情勢と世界観、主人公2人の出会いと人となりなどが綴られ、終盤でなんとなくメインテーマは見えてきます。
そして2巻になると周りに人々(特に主人公ヨキの家族)が大集結。それに伴い、周囲の状況も動き出しました。

主人公の片割れである青年・ヨキは、関係者が権力者だらけで厄介ごとを持ち込まれがち。そこそこ距離はとってるものの、それでも着実に争いごとに巻き込まれてます。
台風から微妙に外れたところで交流を深める2人に、着実に忍び寄る嵐。それでもやっぱり中心人物にはならなそうな点も、なんだかおもしろいな~と。主人公なのに作中で描かれるゴタゴタの主要人物ではないという。関係者ではありますが、わりと遠くから眺めている印象。

これからいったいどうなっていくのか。舞台も(たぶん)整ったしあと5冊くらいかな~と思ってたら、あとがきで「全3巻の予定」とあり目玉飛び出そうになりました。
次で終わるのか。マジで?2巻のあのラストで、いったいどうやってあと1冊でまとめるのでしょう。謎。同じことは『鉄壱智』でも感じたことを思い出しました。

一体どう終わるのか、主人公たちの関係はどこに着地するのか。なるべく早く3巻が出てくれることを願います。