ほねぐみ

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【健太郎さん】30分間の恐怖

健太郎さん

健太郎さん

  • 西川浩幸
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父、母、兄、妹の4人が住む家には「健太郎さん」と呼ばれる中年男性もなぜか同居している。一日何をするわけでもなく、一言も話さない健太郎さん。彼は何者で、なぜ家に居ついているのかを追っていく話。


タイトルの『健太郎さん』に目を惹かれたのと「誰?」と気になったので視聴。上映時間「35分」という表記に誤りかと思いましたが本当でした。約30分のショートムービーです。
怪奇現象もグロいシーンもなく、びっくりさせる演出もなし。なのに怖い。ひたすら怖い。
健太郎さんも怖いし、何が起こっているのかわからないのが不気味です。ぞわっとするというより、じりじり後ずさりたくなるような怖さと言えばいいでしょうか。
健太郎さんのおかしな食べ方、妹がなついている理由、一方で兄が忌み嫌っている理由、兄が片足を引きずっているわけ、父親が車通勤しない理由、そしてなぜ健太郎さんが家に居ついたのか。
あらゆる謎が終盤で明かされるも、すっきりすることはありません。なぜなら新たな謎が出てくるから。かといって不完全燃焼というわけではなく、その「わからなさ」も怖さ、不気味さにつながっていると感じます。
健太郎さんの正体や同居の理由がわかっても、それでもなお怖いのがすごい。ふつう、理由がわかったら不気味さや怖さって薄まるものだと思うんですけど。

全体的に光の使い方がうまいと感じました。開いた玄関から見える外の明るさと、閉まったあとの家の中のほの暗さ。
あとびっくりさせる演出がないところもいいです。本当に、一切ありません。やろうと思えば「家族の誰かがふり返った目と鼻の先に健太郎さんがいる」とかできると思います。想像しただけでめっちゃ怖い。というかそうなるのではと想像して、目を細めながら観ていたシーンがちらほら。でもそんな演出はありません。
ホラーと銘打っていたら、ふつうはびっくりポイント入れたくなるものなのでは。なのに入っていないのすごい、えらい、と思いながら観てました。そういった演出がないことでたすかる命がある。
たぶんショートムービーだからできたのだと思います。もし普通サイズ(90~120分)だったら、あのままのテンションを維持するのはすごく難しいでしょう。

伏線の張り方もうまく、ホラー風ミステリーとして観ることができました。
家族4人を演じる役者さんがあまり上手でないのが気になりましたが、なんとなくわざとな気がします。一家を白々しく見せて、健太郎さんの奇怪さを際立たせるためなのではと思えました。