ほねぐみ

本、映画、ゲームの感想など徒然

【青野くんに触りたいから死にたい】恋と呪いと遺伝と環境

主人公・優里ちゃんと、交際2週間で亡くなった青野くん。後を追おうとする優里ちゃんのもとに、幽霊になった青野くんが帰ってきた。
2人でいることを望むも、身の回りで不可解な出来事が起こり始める。そして次第に友人、家族、周囲の人々、街全体をも巻き込んでいく話。


最新10巻が1月下旬に発売されました。2巻が出た直後くらいからずっと追っている漫画です。
2022年春にはドラマ化もされ、一気に人気が出た印象。やや癖のある絵柄ですが、独特なテンポとストーリー運び、言い回しといい好きな人は好きでしょう。


「ホラーラブコメ」や「ゴーストラブストーリー」と表されているとおり、ラブもホラーもコメディもあります。
人や心霊的怖さにゾッとさせられたと思ったら、クスリと笑ってしまう場面もあるしあまりの切なさに感情が爆発しそうになることも。とにかく喜怒哀楽いろんな感情が揺さぶられます。

これだけ読み手の心を揺さぶるのは、作者さんの観察力・描写力が優れているからかと。人物の心理描写がとにかく巧み。
実際、今回明かされたとある人物の過去がもうもうもうホントにつらい。キャラ自身が自分の気持ちを言葉にすることは少ないのに、表情と取りまく状況と会話文だけで察せられます。とてもひどい境遇なのに「こういうことってあるよね……」と思わせられるのもすごい。

そしてその人物と主人公2人の辿ってきた道が、今のところ綺麗に重なっていることにも戦慄。「虐待されて育った子は虐待する」じゃないですけど、けっきょく自分のされてきたようにしか他人に接することができないのか。

少し話は逸れますが、ホラーものって「代々伝わってきた因習や言い伝え」に「ある個人の非業の死」が重なって呪い・怨念になる。そんなパターンが多いと思います。
そうしたホラーものの鉄板と、優里ちゃん・青野くんの恋愛模様が重なる点がおもしろい。ある個人の気質や性格(遺伝)と、生まれ育った家庭や時代や文化(環境)が折り重なった結果、今がある。
作中で紡がれてきた物語も然り。誰が悪いわけでもないけれど、少しずつ少しずつ溜まっていった負の側面が、主人公2人によって引火した。最新10巻を読んでそう感じました。
今の状況は「あの土地で」「2人が」出会わなければ起こらなかった。そういう意味では優里ちゃん・青野くんの2人は最悪に相性がよいといえるでしょう
「愛も呪い」も等しく「遺伝と環境」であり、並列に語ることができる。それがこの話の主題なのかもしれません。


ストーリー展開もですが、登場人物一人ひとりも魅力的、もとい解像度が高い。「こういう人いるよね~」ではなく「そういうことある……!わかる……!合点……!」って感じがします。つたわれ。
共感できるキャラクター性といえばいいのでしょうか。みんなそれぞれ個性的かつ独特で、そうありふれた感じでもないのにありふれているというか。あなたがそう思うのも・するのも無理はない、と思わせられることばかり。

そして「共感できる」とは別ベクトルで、描き方がすごいのはやはり主人公の優里ちゃん。
たぶん無意識なんだと思いますが、彼女の「相手の要望を察して応える」能力が半端じゃありません。きっと小さい頃からそうやって家庭で生き延びてきたのでしょう。まさに機能不全家族の申し子。
その力があったから切り抜けられた場面も多々ある(学童での幽霊騒動、青野くん弟への対応)ものの、対青野くんとなると裏目に出ることが多い印象。堀江さんや藤本君といった周囲の人たちも巻き込まれるからか、ハラハラすることが多いです。
青野家のコミュニケーション様式に無意識に応えてきた結果が今なのだと思います。本当、青野くんの相手が優里ちゃんじゃなければもっと違った状況になっていたのでは。ただ優里ちゃんだからここまでこれた、とも言える。

遺伝と環境のネガティブな積み重ねが現状だとして、ネガだけでなくポジティブな働きもどこかにあるはず。それを主人公2人や周囲の人たちが見いだせるといいです。
だから主人公2人から、友人、家族、周りの人々、街全体と巻き込まれる範囲が拡大していったのでは。関わる人たち(特に生者)が多ければ多いほど、巨大なエネルギーが生まれるとか……?あまり関係ありませんが、交際から結婚にいたる間も同じように交流範囲が拡大していくなと思いました。

あと2~3巻くらいで終わるはず。いったいどう終わるのか。予想もつきませんけど、ぐるんぐるん感情を振り回されるのは確実だと思います。