【鍵の掛かった男】珍しくワトソン・アリスが大活躍
あるホテルに5年滞在し続けた男が、部屋で亡くなった。警察は自殺と断定したが、推理作家・有栖川有栖を経由して火村英生のもとに再調査の依頼が舞い込む。謎につつまれた男の過去を、推理作家と大学の准教授が解き明かす話。
作家アリスシリーズを初めて手に取ったのは中学?高校?くらいのときのこと。
『ダリの繭』ハードカヴァー版の装丁を何かで見かけて一目ぼれして、わざわざ書店で取り寄せてもらった覚えがあります。真っ黒い表紙に、天地やのども黒くなっていて凝った造りでした。なつかしい。
調べたら『46番目の密室』や『海のある奈良に死す』『朱色の研究』なども昔の文庫版とは装丁が異なっているんですね。月日の流れを感じる。
シリーズは『怪しい店』まで読んでいましたが以降は未読。だったところ、ずーっっっと読みたいと思っていた『鍵の掛かった男』をなんとなく「今だ!」と思い読むことにしました。
タイトルからして名作臭がただよう……と思っていたら、案の定とてもおもしろかったです。
「自殺か他殺かわからない」というのは推理小説ではときどきあるものの「被害者の過去から洗っていく」物語は珍しい気がしました。
そもそも何が謎なのかがわからない。強いて謎と呼べるものは、亡くなった男性が「なぜホテルに5年も滞在していたのか」「どのような生き方をしてきたのか」くらい。死因にも状況にも不自然な点は一切ありません。
男性がやりとりした人々の話を手繰り寄せるようにかき集め、かすかな手がかりを飛び石に男性の半生を追っていく。ここまでの前半パートは、語り手である「私」有栖川がほぼ一人で調査します。
この点も珍しいなと思っていて、火村シリーズは火村・有栖川のバディで調査することが多い印象。有栖川ピンもなくはないですが、単独調査かつめざましい成果を上げるのはやはり珍しい気がします。探偵役はあくまでも准教授なので。
アリス快挙だな~と思っていたら、准教授が合流してからの追い上げがすさまじかった。さすが探偵役、おそるべしという感じ。
ごってごての物理トリックも嫌いじゃありませんが、他者の言動や状況から推論に推論を重ねて真相にいたるのも良い。なるほどそう考えるのかと、思考の切れ味を目の当たりにできて感動します。
思考の切れ味というと、終章の6である人が最後に言ったことに感心しました。そういう考え方もあるのか、と。自分にはなかった考えだったのでハッとさせられた。ただ本人に言わんかーいとも思いましたが。
他にもさまざま、感嘆したりうるっとさせられたりするシーンがありました。
作家アリスシリーズは、どれも一人でちびちび酒を飲みながら読みたくなるものばかり。落ち着いた静かな場所で、じっくりかみしめたいというか。シリーズの中でも本書はその最たるものだと思います。
次は『インド倶楽部の謎』が読みたいです。