ほねぐみ

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【デビルズ・アワー ~3時33分~】我々はどこから来てどこへ行くのか

ビロードうさぎ

ビロードうさぎ

  • カイル・ロウ
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児童相談所で働く主人公は、毎晩必ず3時33分に悪夢で目が覚める。
喜怒哀楽を出す術を知らない息子、家の中に感じる誰かの気配、ときどき襲われる先のことが「わかっている」という感覚。ある殺人事件をきっかけに、違和感の謎が解き明かされていく話(全6話)。


ものすっっっごくおもしろかったです。観終わってしばらく他のことは考えられなかったし、早々に2周目に入ってしまったほど。
最初は、おもしろそうだけどタイトルがちょっとな~なんて思っていました。しかし試しに1話を観てみたら、あまりのおもしろさのやめ時を見失った。さすがに明日に響くからこれでやめようと観た4話がまさかの内容で、ほんとうっかり最終話まで突っ走らなかった自分を褒めてやりたい。

ほんの少しでも興味を持った方はどうかネタバレを踏まず観ていただきたい……!内容を文字としてただ知っただけでは得られない、映像ならではの感動と魅力が本編にはあります。


何に感動するって、映像効果がもたらすストーリーと登場人物たちの「厚み」に感動します。

最初はとにかくよくわからないことだらけです。何度も出てくる意味深な映像と、登場人物たちの理解できない言動。このシーンは何なのか、何が起こっているのか、またキャラクターたちが何をどう理解して行動しているのか。疑問符だらけの中、しかし観ているうちにだんだんわかってくる。
この「わかる」という感覚がますます不思議な味わいをもたらします。作中で明言されていることは少ないのに出てくる映像や人々の言動をつなぎあわせると、不思議と「わかっ」てくる。本当に不思議な感覚、としか言いようがありません。

トータルとしてそこまで複雑なことは起こってないと思います。フィクションに慣れている人からすれば「わりとよくある話」ですし、実際3・4話あたりでだいたい想像がつくようにもなっています。
それでも好奇心と想像力がかき立てられるのは「見せ方」が上手いからでしょう。視聴者に情報を出す順番(物語の進み方)が完璧で、最初は「?」となったシーンや言動があとからじわじわ効いてくる。「あれはこういう意味だったのかー!!」という感動がすさまじいです。
特に2周するとそのことがよくわかります。話を理解した上でもう一度観ると、わけのわからなかったシーンや言動の理由がちゃんとわかるようになっている。初見時にいだいたちょっとした違和感も、2回目に観るとほぼすべて説明がつきます。たとえば話の流れがちょっと強引じゃないかなとか、この人なんでこんなこと言ったんだろうとか。
話そのものはわりとシンプルなのに、視聴者側に出力されるものが厚みがあってすごい。

登場人物たちの描き方もすさまじい。主人公はもちろん、息子のアイザック、警部補とその相棒、奥方、犯人の男、主人公元夫、精神科医の先生などなど。ちょっとした台詞と声のトーン、表情、エピソードで人となりがかなりわかるし、作り込まれていると感じます。
個人的に興味深かったのは、犯人の男と精神科医の先生です。犯人は、表情そんなに変わらないのに「彼がどうやって生きてきたか」が台詞から察せられるところがおもしろい。精神科医の先生はほぼずっとアルカイックスマイルなのに、目元と口元の微妙な違いで表情のバリエーションが豊かなところが感動しました。
いったいどんな風にこの話を考えていったのか……ちょっと想像できません。とにかく「見せ方」が化け物じみてる。「おもしろいもん見せてやんよォ」と冷静にブチ切れながら作ったとしか。それくらいの熱量と鋭さが感じられました。


シリアス寄りではあるものの、陰鬱な作品ではない(と自分は感じます)し、ところどころユーモラスなシーンもあります。
あとけっこう怖い。突然わっ!とおどかしてきます。このおどかし要素のことを「ジャンプスケア」というそうですね。第1話から容赦なくジャンプしてくるしスケアです。
ただ3話あたりから怖さの描かれ方が変わってきます。ジャパニーズホラー特有のじめじめした感じでもなく、突然現れておどかすでもなく、怖さってこういう風にも描けるんだなと勉強になりました。


このまま全6話で終わってもいいのですが、できればどうにか何卒ぜひに続編をつくっていただきたい。こんなにもシーズン2を願った作品ははじめてです。
あらかたの疑問は解けたとはいえ残っているものがまだいくつかありますし、何より単純に続いたら話がどうなるのか気になる。

本作がめちゃめちゃおもしろかったので、同じくAmazonオリジナル作品の『ペリフェラル~接続された未来~』も観てみようと思います。