ほねぐみ

本、映画、ゲームの感想など徒然

【ボーダーライン】ラスト30分は目が離せない

極悪非道な麻薬カルテルの殲滅作戦に動員された、FBI所属の主人公。なぜ自分が動員されたのか、どういった作戦なのかを知るうちに大きな葛藤にさらされるお話。

残虐シーンが多そうで敬遠していましたが『メッセージ』や『DUNE 砂の惑星』と同じ監督さんということもあり、期待に胸膨らませてついに視聴。
そこまで惨たらしくはなかったです。凄惨さが感じられる遺体は出てくるものの、暴力シーンは少なめ。かなり配慮を感じました。
そしてアクション映画というよりは心理描写よりのサスペンス映画、という感じです。アクションもなきにしもあらずですけれど、わりと淡々と話が進んでいく。正直、何が起こっているのか最初はよくわかりませんでした。顧問役も元検事も、なんとなく意図するところがあるんだろうな、くらいで何を狙っているのか、これからどうなるかがさっぱりわからない。
起こる出来事をただ眺めるのみで、なんだか少し退屈だな、なんて思いながら観ていました。ハズレだったか期待値が高すぎたか。しかし最後30分、いや20分でがらりと評価が逆転。

ラスト30分で、それまでの1時間半にコツコツ積み上げられたものが効いてきます。
描かれていたのは事件の巨大さと凄惨さ、そして主人公の置かれた立場や人となり、元検事のバックボーン。これらが見事に合わさって、終盤でなんともいえない渋みが生じます。

ボスが見せた表情がひどくて……今さらすぎるでしょう。今までなんだと思ってやってきたのか。
そしてそんなボスが放ったありきたりな言葉が、ラストの主人公と元検事とのやりとりで効いているなと。「NO」と言われて、元検事は何を思ったんだろう……まるで奥さんに言われたように感じられたんじゃないかな。
元検事はあのときひょっとしたら心を抉られたかもしれませんが、主人公のこれまでを思うとNOというのも当然だよなと。このすれ違いはカンペキ根回し不足が原因で、顧問役やもっと上の人たちが慎重に事を進めていたらきっと生じませんでした。
人をアサインするなら、何のために・何をして、当人にどんな役割を期待しているのか説明することが最低限必要でしょう。立場ある人たちがそれを怠ったから、主人公と元検事のやりとりは起こったんだぜ……次はもっと慎重になってほしいものです。

そして主人公の言うことはわかりますけど、最後ベランダのシーンでは元検事に応えてあげればよかったのになーとは思いました。気の毒すぎだろ元検事。ただ主人公にそんな義理はないっちゃないですが。

元検事、これからいったいどう生きていくのか……まぁ生き残ったからにはきっといつかいいことあるさ(ホントか?)なんて思っていたら、どうやら続編? があるんですね。


あらすじの「アレハンドロは、兵士としての任務、復讐、そして人質として保護する少女の命の狭間で、過酷なジレンマに直面することになる……」との文言にマジかよとしか。アレハンドロ氏、またジレンマに直面するのか……本当に気の毒。

復讐について考えるとき、思い出すのは室生犀星さんの詩『遠い旅』と荒川弘さんの『鋼の錬金術師』です。あと漫画『ヨルムンガンド』のレームの台詞。「殺って殺られて殺り返して、でも俺が殺られたときは殺り返さなくていい」だったかな? このフレーズが大好きでめっちゃ復唱してました。

人がもたらす暴力といった理不尽な行動は、どうにかして止めなければなりません。意図的に行われているならなおさら。止めるために暴力的手段を使わねばならない、こともあるでしょう。人間として避けた方が賢明ではあるでしょうが。
抑止力は必要。ただ「あいつが憎い」「許しがたい」という復讐心は、是とよべるものなのか。
ぬるい理想かもしれませんが、たとえどんなめに遭ったとしてもすべてに背を向けて、ひとり遠いところで幸せになるのはそんなに難しいことなのか。ぜんぶ忘れたみたいにふるまうって、そんなに勇気がいることなのでしょうか。
きっと「死者たちは復讐を望むはず」と思わせるのでしょうね。正確には「生き残ってしまった自分の中にいる死者たち」でしょうけども。

続編(?)と思しき『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』も近いうちに観てみようと思います。1作目とは監督さんが違うのでかなりテイストが異なる模様。もう少しアクション寄りになりそうな。
あと今作の主人公、なんだか見たことあるなーと思っていたら『オール・ユー・ニード・イズ・キル』のリタさんでした。不思議な魅力を持つ俳優さんだと感じます。