ほねぐみ

本、映画、ゲームの感想など徒然

【暗黒館の殺人】辛口感想

シリーズ第7弾。人里離れた湖の近くに建つ漆黒の館「暗黒館」。
浦登一族が代々住まう館に招待された「私」。嵐が直撃する中、謎めいた人々と忌まわしき風習、そして殺人事件の謎を解き明かす話。
(※文庫は全4巻)


タイトルにもある通り辛口な感想です。手放しで「おもしろかった~!!」という感想ではないので、以下折りたたみます。

 

ページを捲ってびっくり玉手箱。登場人物がものすごく多い!
3代にわたる浦登の人々とその親戚、そして使用人たち。数も多いうえに関係が複雑なので「こりゃ覚えられん」と思いジェノグラムを書きました。手ずからジェノグラムを書いた作品は生まれて初めて。
ただし途中からちゃんと家系図を載せてくれてます。そりゃそうだ。
そんなお手製家系図とともに意気込み読み始めたものの、正直あまりおもしろさを感じませんでした。
とにかく長いっ!!全4巻という長編で、登場人物も建物も多く(なにせ東西南北の4棟ある)、設定も凝っているものの、その描き方がまっすぐすぎた印象を持ちます。

変わった作品ではあります。以前読んだ『人形館の殺人』も一風変わってましたが、今作『暗黒館』もずいぶんです。
(人形館、奇面館、水車館の感想はこちら
まず探偵・鹿谷氏が出てきません。そしてワトソン役・江南さんは登場はするものの記憶喪失となってしまい、ほぼずっと胡乱な状態です。大丈夫か。
なので探偵役は「私」こと中也君で、ワトソンが玄児さんでしょうか。しかしこの玄児さん、暗黒館に住まう浦登一族の一員ですし、ゆくゆくは当主にもなる跡継ぎの立場。中也君からすれば友人ではあるものの、秘密が満載で胡散臭い。信用して大丈夫!?と思わなくもない。
そんなこんなで江南さん(ワトソン)はいるのに探偵不在、そしてその江南さんは記憶喪失。代わりの探偵役とワトソン役はいるものの、ワトソン玄児さんは微妙に信用できない……という中で話が進んでいきます。

さらに登場人物設定のみならず、作中の文体にも変わった仕掛けがされています。読み進めていくとすぐわかる、何コレ?と首をかしげてしまうような描写のされ方がそこかしこに。
これも今作の特徴でありつつ、個人的にはない方がよかった……おかげで1巻の時点で何を狙っているのかだいたいわかってしまい、残り三巻が消化試合になってしまいました。
今作のテーマを「記憶」と「自己同一性」と考えてみると、意図することはわからなくもない。たぶん読者にわかりやすいよう、公平になるようにと配慮した結果の工夫なのでしょう。
それにしてもトリックがわかりやすすぎてな……全4巻という大作を「こういうことかなー」「いやこんな可能性も!?」とドキわくしながら読みたかったので、わりと最初の方でぜんぶわかってしまったのが残念でなりません。物足りぬ……!!
しかもトリックに気づくと芋づる式でわかってしまう犯人。意外性もなにもなかった。
せめて登場人物に共感できるか、ああそういう考え方もあるのかと驚くことができればよかったのですが、それも特になく。強いて言えば双子が少し興味深かったです。

とはいえ、登場人物たちのいざこざや浦登一族の奇妙なしきたり、ただっ広い館に変わった室内の構造など、よくここまで設定を思いついたなと。
全体の雰囲気もだいぶおどろおどろしいです。1巻はまだそうでもありませんが、2巻に入るとなかなかグロテスクな描写もあり。個人的に2巻ラストの描写がキツかったです。あと中也君がかわいそうでした。


横道にそれた話。
今作の舞台・暗黒館に住まう「浦登」一族は、同じような設定の人物を奥様の小野不由美さんも書いてらっしゃいましたね。
ひょっとしてご夫婦タイアップ作品か……!?と思い調べたところ、小野さんの作品と今作は時期がぜんぜん違いました。綾辻さんが触発された……のかは不明ですが、ご夫婦の作品に縁を感じて勝手にニヤニヤしてました。きもちわるい。

館シリーズはこれで最後にするつもりだったものの、残りはあと迷路館・黒猫館・びっくり館の3作品なんですね。
『迷路館』は読みたいです。あと遠い昔に読んだであろう『十角館』と『時計館』もできれば。


写真はお土産にもらった萩の月。記事内容になんも関係ないことをときどき書きたくなります。ずっと変わらない美味しさってすごい。