ほねぐみ

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【鬼と踊る】日常の切れ味抜群、川柳や

鬼と踊る

鬼と踊る

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詩・短歌・俳句はそこまで馴染み深くはありませんが、ときどき手に取ります。今作『鬼と踊る』はタイトルに一目ぼれ。「踊る」って楽しそう、でも鬼とって怖くないのかと、コミカルと殺伐さが同居していて中身もまさにそんな感じ。
例を挙げると

 ずっと神の救いを待ってるんですがちゃんとオーダー通ってますか
 1杯目を飲む決断は僕がした2杯目以降は別人がした

Amazonの商品紹介欄にあと何作か載っています。「あなたとは民事・刑事の双方で最高裁まで愛し合いたい」はまことに秀逸。
他には抽象化された父さんや憂鬱を撫でる歌、燃えるゴミの歌などが好きです。歌の内容といい語のチョイスといい、ちょっとラップに似ているかもと今思いました。


わりと目にする日常的な出来事を、切り取って限られた字数でまとめる。その切り取り方の着眼点と言葉選びがすばらしいです。わかる~と頷くこともあれば「そこを見るのか」と驚くことも。
新鮮な驚きと「わかるわ~」というミックス具合が丁度いいのでは。だからか200首あってもぜんぜん飽きません。自分の場合、短歌・俳句集や詩集を眺めていると「もう、お腹いっぱいです……」とたいてい途中で寝かせることが多いので。それがなかったことに驚き。

あとおもしろく感じたのは、五七五七七の区切りにスペースがほぼ使われていないこと。
たとえば「蝉時雨蚊取り線香西瓜割り」とかだと、漢字が続くのでスペースがないと読みづらいです。しかし今作には漢字続きがほとんどありません。ただスペースを「。」代わりに使っていることが多く、なんだか新鮮でした。

キリのいいところで単語や文章が区切れないのもおもしろいです。
たとえば「初デート/君と東京/モノレール(スミノ凡作)」みたいな。「東京モノレール」で一単語なのに、五七五の区切りをまたいで存在する、そんな歌がときどきあります。
黙読してると最初はすんなり入って来ず混乱しますが、その混乱がまた楽しい。


どの歌もきっと、漢字ひらがなを並べた時の見た目や語順・語感に気を遣って作られているはず。1首作るのににどのくらい時間がかかるのでしょうか。さらにそれが200首以上。
詩歌にかぎらずですが、何事も消費より作る方が手間がかかります。創作にかかった時間の何分の一かで消費するのは、背徳的だなぁと感じます。