ほねぐみ

本、映画、ゲームの感想など徒然

【インセプション】虚無と希望とあわいの化学反応

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人の夢の中に入り込み、情報を抜き取ることを生業にしている主人公。ある実業家から「ライバル社を無力化してほしい」と依頼を受ける。その内容は、不可能とされている記憶の植え付け<インセプション>。依頼をこなす最中、主人公が過去の罪と対峙する話。


映画館でも観ましたし、DVDでもかれこれ5回は観ています。もうストーリーは知っているし覚えているものの、定期的に観返したくなる作品。

公開されたのは2010年。当時は、折りたたまれて上からびゃーっと降りてくる街並みがとにかく話題になりました。かなりインパクトあるシーンだったこともあり「そこだけは知っている」という人も多いのでは。
今さらながら、10年も前にこのような映画が作られたことは画期的だったと思います。アイディアも映像も本当によく思いついたなと。
今回、一緒に観た人(初見)が「よくこんな話思いついたね。やっぱりノーラン監督狂ってるね(褒めてます)」と言ってて、たしかに、と頷いてしまいました。

ストーリーはざっくり言うと、夢と現実、生と死の境はないようでいてきっとある、我々はその線引きをできるかもしれないしできないかもしれない、でしょうか。
本当は「できる」と言い切りたい。けれど観ている側としてはだんだん弱気になってくる。たぶんできる、できるかもしれない、いやどうだろう……みたいな。そんな映画だと思います。

そんなようわからん世界を形作る、ダイナミックな映像と繊細なストーリー。映像は迫力満点でド派手なものの、役者さんの演技やストーリー展開が緻密で観ていて飽きません。
まさに「動」と「静」という印象。バランスのとり方がうまいからか、2時間半があっという間です。
さらに主人公たちが行う「夢の中に入る」作業が他のシーンとつながったり、登場人物たちの境遇・心情が重なったりとオーバーラップもある。だから何度観ても飽きないのかもしれません。話に厚みがある。

そしてところにより降るラブストーリー。
ラストの主人公夫妻のやりとりはいつも泣いてまうし、アーサー・アリアドネのやりとりにはキュンキュンしてしまいます。キュンキュンって死語でしょうか。
今ふと思いましたが、映画を観たり小説を読んだりすることも「夢の中の体験」と似ているかもしれません。疑似体験という点で。ただ「夢の中」の出来事の方が、現実感が強いことは間違いないでしょうが。


「あの人は生きている」と自分が思えば生きているし、ここが現実と思えば現実になる。すべて自分次第。
けれど生死も夢も現実も「ただ自分がそうと思う」ことを超えた存在であるはず。そんな希望と「では今ここにいる自分は生きているのかどうか」という不安が入り混じった作品だと思いました。

こうした不思議な後味、余韻もまた、この作品の魅力だと感じます。