ほねぐみ

本、映画、ゲームの感想など徒然

【水曜日が消えた】おとぎ話的サスペンス

幼少期の事故によって≪月曜日≫から≪日曜日≫までの7人格にわかれた主人公。それぞれが好きなことを見つけて生活している中、≪火曜日≫だけは週一だけの生活に不満を感じていた。そしてある日目覚めると、そこは火曜日ではなく水曜日だった。初めて火曜以外を生きる≪火曜日≫と、彼に何が起こっているのかを追う話。


『消えた水曜日』ではなく『水曜日が消えた』なのがいいですね。
不思議なタイトルだな~と気にはなっていたものの、観るつもりは特にありませんでした。ただあるとき主演が中村倫也さんだと知り、観ることに。
ドラマ『岸辺露伴は動かない』で初めて拝見したときから中村さんの作品はなるべくチェックするようにしています。なんだか雰囲気が独特な方だなと。作品ごとに顔も雰囲気もガラッと変わるので、いまだに顔が覚えられません。

そんなカメレオン俳優にぴったりの作品。なにせ主人公は7人格。文字通りの七変化か……!と思いきや、出てくるのはほぼ≪火曜日≫のみ。肩透かしをくらいましたが、構成がとてもよくむちゃくちゃおもしろかったです。

まず開幕の映像がものすごく綺麗。
主人公が多重人格になったきっかけであり、分類するとしたら「つらかった記憶」になるはず。なのに空は青いし鳥は飛んでるし、辺りに散らばる物も色彩豊かでものすごく綺麗。つらさと幸せは背中合わせということでしょうか。
そして全体的に雰囲気がメルヘンというか、ファンタジーっぽい。たぶん主人公の設定や演出がそう思わせるのでしょう。最初は主人公の現状もよくわからないし、謎ばかりでちんぷんかんぷんの中進んで行くので「おとぎの国に迷い込んでしまった」感がありました。
そしてそんな中でちらほら漂う緊迫感。登場人物は少ないのに、主人公以外の誰もが何かを隠して秘密を持っていそうで怖いんよ……。
そこまで想定外のことは起こらないしわりと淡々と進んでいくのに、最後まで惹きつけられて目が離せません。
エンドロールを最後まで真剣に観たのも初めてなら、エンドロール後に泣いたのも初めてでした。泣く要素どこにもないはずなのに、なんかいろいろ考えてたら胸がいっぱいになってしまった。

最後に、多重人格(解離性同一性障害)について。フィクションに現実的見解を盛り込むのはつまらぬことよ……とは思いますが、いちおう臨床心理士なので。
今作の主人公の状態(多重人格)は、精神的ショックというよりもまんま脳の損傷が原因みたいなので、精神科領域で扱われる解離性同一性障害とは似て異なるものだと解釈しています。
とはいえ解離性同一性障害とかなり似ているので、治療者という立場からすると登場人物たちの言動にモヤ~ッとすることは正直ありました。ただ主人公たちが感じた「いなくなりたくない」という言葉に複雑な気持ちになるのも事実。

「自分以外の複数の人格がいる」って健康的ではありませんけど「必要があって生まれたものなんだよね」と尊敬する先生が言ってました。
ほくろも幻聴も自分以外の人格も、あったものがなくなるのってさみしい。

だからこそ今作の終わり方が輝くし、なんだか希望が持てるのだとも思いました。
できれば映画後の主人公の生活をもう少し見ていたいです。スピンオフでやってほしい。