ほねぐみ

本、映画、ゲームの感想など徒然

【9人の翻訳家】本×生きがい×ジイさん

ベストセラー小説「デダリュス」の最終巻を数ヵ国で同時刊行するため、集められた9人の翻訳家。人里離れたネット環境のない洋館で翻訳作業を進める中、「冒頭10ページを流出させた。500万ユーロを払わなければ全ページが流出する」との脅迫メールが出版社に届く。誰が・何のために行ったのか、そして翻訳家たちの中に犯人がいるのかを探るお話。

お、おもしろかった……!!(震)
前に『私のちいさなお葬式』という作品を観に行ったとき予告でやっていて、以来ずっと気になっていた作品でした。
しかし言うて題材が本やし、そこまでミステリー・サスペンスにできるのか、なんて疑っていたのも事実。そんな自分を張り倒してやりたい。

単純に話がおもしろい・よくできているのもさることながら、構成が非常にうまいと感じました。
話は主に「洋館(翻訳作業場)での出来事」が語られます。翻訳家たちが集まり、洋館でどう過ごしたか、そして事件がいつ起こってそれぞれどんな反応を示したかなど。ただ合間に「洋館に集まる前」と「解散後」の話が差し込まれます。
「洋館で何があったのか」を描きながら、同時に「事件解決後」の話が入ってくるので「この間何があったの!?」と好奇心が駆り立てられてなりません。
この描き方によって、まるで図と地が反転するように出来事の見方がガラッと変わることもありました。そ、そうきたかー! とゾワゾワ。
翻訳家たちの態度も意味深ですし、何よりキーワードである小説「デダリュス」も断片的にしか語られずミステリアス。
本と、本に魅了された人たちと、本によって人生狂わされた人たちが織りなす人間ドラマという感じでした。作中で言われた「物語はすべてを圧倒して、私たちの心で永遠に生き続ける」という台詞にただただ共感。

メインキャラクターがなにせ9人もいるので、最初は見分けられるか心配でした。人の顔と名前覚えるの苦手……しかしみんな見た目から個性が際立っていて、まったく不自由なく見分けられます。ヨカッタ!
ロシア、スペイン、中国など多国籍の人たちが集まり、それぞれの国について冗談を飛ばし合うのがおもしろかったです。ラストの多言語交流(?)も。笑うところではない緊迫するシーンのはずなのに、なぜか可笑しみが深い。

本作はフランス・ベルギーの映画。だからか、ユーモラスな場面もありつつどこか静謐で寂しげな雰囲気がずっと漂っています。ど派手な演出はないのに、よくぞここまで魅せたなと。ハリウッド映画だったらきっと建物の一つも爆発四散してたでしょう(偏見です)。
もし別の国でリメイクされたらまたガラッと雰囲気が変わる気がします。見比べてみたら面白そうだと思いました。