ほねぐみ

本、映画、ゲームの感想など徒然

【ヒストリエ】満点のあやしさ


友人に勧められて読みました。もともと同作者さんの『寄生獣』が大好きで、読みたいな~とずっと思っていました。
やっぱりおもしろいです。でもどうしておもしろいのかまったくわかりません。特に手に汗握る展開というわけでもなく、淡々と進むのにおもしろい。一度読み始めるとやめられなくなる。

どうしてこんなにおもしろいのか? 理由を2つ思いつきました。
1つは見せ方で、コマ割りとアングル、間の取り方。あと時系列の組み立て方も。
コマ割りとアングルについてはかなり独特だなと思います。『寄生獣』のときも感じましたがそれよりさらに。絵画的というか邦画的というか……。意図してやっているのか天性のものなのかは判断できません。
そして2つ目は共感できるところ・できないところの配分。この匙加減が絶妙なのではないかと。
紀元前の話とはいえ、争いのきっかけや争い方、登場人物の心情など、現代人にも十分理解できるし伝わるよう描かれています。その一方で、当時独特な考え方・ものの見方などもあって興味深い。
さらに「共感できないところ」最大にして最高なのが、あやしく異常ともいえる魅力を持った人物が出てくること。これがスパイスになってる気がします。筆頭がアレクサンドロスとオリュンピアス王妃。あとパウサニウス、トラクスなど。
主人公・エウメネスはそれほどあやしくも異常でもありませんが、あの面子に囲まれてなお色褪せないのすごい。という話を勧めてくれた友人にしたところ「エウメネスもけっこう異常では?」と返されました。そうかな……?

ラクスがごっっっつ好きです。さんざん小突かれてひぃひぃ言ってたのに、枷が外された途端の「三つ子の魂百まで」みたいな機動力がたまりません。どんなに叩かれてへこませられても折れぬものを持っている人は美しいと思う。
ああいう「真面目に生きてたら振り切ってしまいました」みたいな人が好きなんだ……ストイックな変態というか。ストイックの権化みたいな。トラクスの場合、やってることは血なまぐささ満載ですが。スキタイ魂が爆発しとる。
他のアレクサンドロスやオリュンピアス妃、パウサニウスもそれぞれ違ったあやしさがあると思います。あとカイロネイア戦での王直属の精鋭部隊。みんなちょっとずつ「正気なんだけど気が触れてる」を地でいっていて、怖いのに目が離せません。
アレクサンドロスとオリュンピアス妃のとんでもエピソード(?)は何回読んでもいい。アレクサンドロスなんて「私は何もしていない……」やら「ハルパロスー!」ってわんわん泣いてたのに、カイロネイア戦での豹変ぶりにびっくり。実は王子ではないのかな、なんて考えましたがあれも彼の一面なのでしょう。オリュンピアス妃と間違いなく親子であると納得。

岩明先生は「あやしさ」の描き方がずば抜けていると思います。単なる美形よりも「陰のある感じ」が加わると強い。あと表情も。悲しみや怒り、死の間際などネガティブな方向になればなるほど上手くて引き込まれます。人が死ぬ時の表情とか、なんであんなに上手なんだろう。
絵柄でさらに言うと、主役級の「かわいい、かっこいい」人々よりも「ちょっと重要な脇役」のが上手だと思います。描きわけ&存在感が半端ねぇなと。アンティパトロスを見るたび祖父を思い出します。

最新11巻が出てからそろそろ3年。本当に最終巻まで拝めるのか、今から不安でなりません。まだアレクサンドロス王子も即位してないのに。
うまくいけばあと10巻くらいで終わる……? かもしれませんが、それだけ描くのに何年かかるのかという話。今のペースでは30年くらいかかるのでは? しんでまう(いろんな意味で)
続巻が出るまでしばらくかかりそうなので、その間にアレクサンドロス王まわりのことを学んでみようかと。今はごく中途半端な知識しか持っていないので、学んでおけば「こういう風に描くのか~」とアレンジがより楽しめそうですし。
今一番気になるのはヘファイスティオンです。自分が知ってるのと違う……! とたいそう驚いたので、今後の予想を立てるためにももう少し詳しく知りたいと思いました。