ほねぐみ

本、映画、ゲームの感想など徒然

【犬王】語り継がれないものたち

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公開がずっと楽しみだった映画。期待以上でした。映画館で観るべき作品だと思いますし、観に行けて本っっっ当によかったです。
犬王役・アヴちゃんがもうホントぴったりで、この配役決めた人天才か。

音響設備の良さも相まって、タイトルコールからすでに泣いてました。弦の音が沁み入るのじゃ……。
中盤「鯨」の舞と歌には言わずもがなでボロみたいに泣いた。犬王と友魚のことが示唆されてるみたいで、もう、うわ゛ー!! と。
歌と音の力強さに感動したのもありつつ、「本来だったら語られるはずなかった人々の話」を紡ぐ犬王と友魚もまた「いつか忘れ去られる存在」と思ったら泣けてきてしまい。しかも「そんな彼らを見ている今の自分」とはじゃあ何なのだろうかとか考えだし、存在することの不思議に強く打たれました。
犬王と友魚が紡ぐのは、平家の中でも語られるはずがなかった、忘れ去られたものたちの話。だからこそ二人を支持するのは民衆層(名を残さない人たち)なのだろうと思います。
そんな中で二人に目を留めたのが「側室」というのがすごくおもしろい。彼女もまた名前の残らない人なのでしょう。あと犬王・友魚に対する評価が、殿と側室とで温度差があるのもまたおもしろいです。

けっきょく後世まで名を残すのは「権力者(名を残すもの)に気に入られた」観阿弥世阿弥。ただ犬王たちは名を残したかったのかというと違う気がします。
だから犬王・友魚の顛末は仕方ないよなぁと。二人の立ち位置や時世を考えれば「そうなるしかないよね」というラストでした。
「自分自身で人生を切り開く」と言いますが、果たして本当に人にそんなことが許されるのか、できるものなのかと考えるときがあります。生まれようと思ってこの世に生まれたわけでもないのに、どうしてあとの人生を思い通りにできるはずがあろうか。思い通りに生きられる人がどれほどいるのかと。
犬王が異形の身体を持つことも友魚が盲目になることも、そんな2人の父親も、殿でさえも、自身の生に抗う術なんてなかったんだなと思うと少し悲しくなる。ただ犬王と友魚がひたすら楽しそうなのが救いです。楽しそうな様子もまたもの悲しさを誘いますが。存在するって儚い。
たとえるなら星を見ているときみたいな感じでしょうか。大地に立つこちらは一所懸命に生きてるものの、星の側からすれば人の生など一瞬。その力強さと儚さが一緒くたになって、なんともいえない心地になりました。

そして劇場版の特典でもらった「犬王お伽草子」がこれまたすごくいい。絵も文もよく、何度でも見ていられます。特に犬王と父のページがな、もう、すっごい! 「犬王」のアートブック出して載せてくれまいか。
できればあと一回は劇場に足を運びたいです。もし再び特典が貰えたら保存版にする。