ほねぐみ

本、映画、ゲームの感想など徒然

【キャラクター(ネタバレあり)】虚構と現実

本当は劇場で観たかったのですが、当時立て込んでいたか何かでタイミングが合わず。先日アマプラで視聴したあとも「やっぱり映画館で観たかった……!」と思いました。


一番思うところがあるのはラストバトルです。山城さんと両角君が交錯する中で「それぞれ何を考えていたか?」という点。ためらった(ように見えた)両角君と、いっさいの躊躇なくナイフを取った山城さん。ほとんど抵抗しない両角君が健気に見えました。
「いいよな?」「いいよ」「そうだね」「そうしよう」と目だけで会話しているように見えた2人が、本当のところ何を考えていたのかがすごく気になります。裏表のような関係を築いていたとはいえ、けっきょくのところ他人ですし別人です。「俺(僕)はあなたに近い」、でも「あなたじゃない」。限りなく近いし近づきたいのに重なることはないという無念が「共同制作」という表現に滲んでいるようで、なんだか切なく感じました。2人の(?)目論見も、けっきょく獅童刑事に阻止されるし。

関係性がすごくおもしろい2人だと思います。山城さんは漫画という虚構の世界で「いかにリアリティを出すか」をずっと悩んでいて、一方で両角君はたぶん現実感がどこか希薄だったのでは。描けば描くほど山城さんの知名度は上がる一方、「殺人犯」両角君は名無しのまま。ただ「殺人」という一点においては、山城さんより両角君の解像度の方がずっと上でしょう。模倣された者が模倣し、また模倣され、という永続ループが地獄のようです。

始めたのは明らかに両角君が先。ただ最後の一家殺人で彼が「ごめんね」と言ったのは「本当は殺したいわけじゃないんだけど」感があって鳥肌。山城先生が描くから仕方ないんだよ感がすごい。主従が逆転している。
山城さんの作品はフィクションだから、本当は一切悪くないはずなんですけど、でも悪くない、と言い切るのには抵抗があります。
山城さんの中にも両角君と通ずる「何か」があったはずで、彼はその「何か」を漫画で昇華させていたのでは。だから清田刑事は「描きなよ」と言ってたんじゃないかなと妄想です。山城さんにとって、漫画は取り上げてはならない生命線と感じていたんじゃないかと。同じことは、夏美さんも感じていそうな気がします。

ラストのバトルは、五感を通したものすごく生々しいやりとりだったろうな。それまでずっと空想(漫画)のステージにいた山城さんが、自分のところまで降りてきてくれたようで両角君うれしかったのでは。
ただそんな2人を阻止する刑事が、獅童さん・小栗さんの「隣人13号」コンビで、そりゃ勝てんわと思いました。マジもんのジキルとハイドだから勝てるわけがない。意図的なものかはわかりませんが、個人的にこの配役に大満足です。

あと役柄として、夏美さんの人となりが最後までよくわかりませんでした。聖母なの? と思いながらずっと観てました。
「妻」というより「母」なんだよな、山城さんの……。ぜんぜん怒らないし、甲斐甲斐しいし。正直、人格者すぎて見ていて怖かった。あと彼女が山城さんを選んだ理由もよくわかりません。なんとなく、山城さんより1~2歳年上な気がします。
精神的にも物理的にも「恋人」「夫婦」な距離ではない気がしつつ、唯一、2人並んでソファで話すシーンだけ「恋愛関係にある2人」と感じられました。ただ付き合いは長そうなので、きっと2人にしかわからない歴史やつながりがあるのでしょう。

映画としておもしろかったですが、内容的に小説の方が相性いい気がします。なんて思っていたら、小説版もあるんですね。しかもラストが映画とは違うらしく。にくい商売をなさる……!
少し悩むものの、きっとほどなく読むと思います。