ほねぐみ

本、映画、ゲームの感想など徒然

【遊星からの物体X】SFモンスターかサスペンスか

ずっと気になっていた映画。最近、知人から熱く勧められたので、満を持して観ました。

40年ほど前の作品なので、さすがに演出や映像はところどころ古さが感じられます。ただストーリーは今観ても十分おもしろく、特に中盤は息をつく暇がありませんでした。
緊迫感がすさまじいんです。誰がThingに乗っ取られているかわからない、いつ襲われるか、何が起こるのかという恐怖。

 

いったい、何がこんなに怖さを煽るのか。俳優さんの演技、カメラワーク、音楽。もちろんどれも優れていると思うものの、自分は「決定的な瞬間を描いていないこと」ではないかと思いました。

つまり、Thingに乗っ取られた瞬間が描かれていない。みんなごく普通に過ごしていたのに、あるハプニングをきっかけにちょっとずつ何かがおかしくなっていく。最初は「あれ?」くらいの違和感だったのが、ついに無視できないまでの事態へ。

 

序盤から終盤にさしかかるくらいまで、視聴する側にも「誰がThingか」という手がかりがないまま話が進んでいきます。隊員たちよりかは多面的に観察できるものの、「いつ何が起こるか」「誰が襲われるか」はほとんどわかりません。

モンスターと戦う映画によく見られる、「いつ襲われるか」という息を潜めるような緊張感とともに「いったい今何が起こっているか?」「誰が犯人か?」がわからない、そんな不気味さもあります。そこが少し新鮮だと感じました。

 

ややサスペンス寄りなテイストでありつつ、作中にはきちんと(?)モンスターも登場します。
自分はここが戸惑いのもとで、モンスター系の映画なのかサスペンスなのか、いったいどういうテンションで観ればいいのかわからず置いてきぼりになることがありました。

ゲームでたとえるなら「かまいたちの夜」をやっていたと思ったら、突然モンスターが現れて「青鬼」になった、みたいな……わかりづらい喩えだ……。

とにかく、なんだかいろいろ混じっている気がして、感想を持ちづらいシーンもありました。

 

個人的には、クリーチャー的モンスターはいっさい出さず「人間を殺しにかかってくる『何か』との戦い」「いかに相手の裏をかくか」「見分けがつかないことの葛藤」などに絞った方が良かった気がしました。
Thingは乗っ取った人間に完璧に擬態できるし、裏をかくこともできます。なのに「あらわした正体がこれなのか」と愕然とするんです。行いと動物的見た目のギャップがすさまじく、違和感が拭えません。「この見た目であの頭脳プレイはしないでしょう」と思ってしまいました。
(勧めてくれた人に伝えたところ、共感してもらえませんでしたが…)

 

そして人間側も、いくら相手がThingに乗っ取られたとはいえ、その外側はかつて一緒に過ごした仲間たち。それをノータイムで躊躇なく駆除しにかかるのが恐ろしかったです。
でも自分の命もかかっているし、緊急事態となると、そんな葛藤は吹き飛ぶのかもしれません。

 

これでもし、誰かが「怪物だとわかっているけれど、あいつを殺すことなんてできない」と泣き崩れた隙をついて喰われたりしていたら、もうこの映画は心の殿堂入りでした。